死者の如き従順

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【映画感想】ドラえもんのび太の宇 小戦争(リトルウクライナウォーズ)2022

 ドラえもんのび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)2021が最高の作品だったのでもう1回見ようと思って座って観ていたらまさかの続編が始まって最高でしたね! コロナ禍で1年空白があったのに、毎年のルーティンであった「1年1本の制作」をちゃんとやっていて、それを2023年公開とするのではなくあえて続編として打ち出すっていうのには脱帽です! しかも今次の時局をそのまんま予言していたかの内容……いやはや恐れ入りました。普通にアカデミー賞ワンチャンあると思いました。ただ、やはり突貫工事のような作りだったのは否めなくて、冒頭タイトルコールのところで「宇宙小戦争」の「宙」がなかったのは残念でしたね。去年のR-1グランプリのZAZYの「なん れ」を思い出してしまいました。

 

【あらすじ】

 ピリカ星を独裁者ギルモアの圧政から解放したドラえもんたちだったが、一方地球ではロシアによるウクライナへの軍事侵攻のニュースが連日報じられていた。ウクライナの市民にも犠牲者が出る痛ましい現実を見せつけられたのび太ドラえもんだったが、「流石にプーチンはどうにもできないよねえ……」「地球破壊爆弾しかないんじゃない?」と自由主義世界のなんもしない人(非レンタル)らしい空談を交わすことしかできなかった。ドラえもんたちは80万の軍事力と有能な諜報機関であるPCIAに支えられたギルモア体制を進撃の巨人ムーブで打倒したわけだが、準軍事戦力や予備役を含めると300万以上の戦力(かつ世界最大数の核兵器保有する)を有し、加えて往時の全体主義体制をを彷彿とさせるレベルで国内での情報統制を貫徹しているプーチン体制を転覆させるのは流石に厳しいと考えたのである(さらに大長編向きではないというメタ的理由も手伝った)。

 そのうち、ついにロシア軍は昨年から国境に集結していた部隊ではない温存していたロシア空挺軍や最精鋭の戦車部隊といった主戦力を投入し、大規模な都市掃討作戦を行ってウクライナの首都キエフを陥落させた。ウクライナ軍とキエフ市民たちは果敢に抵抗したが、ロシア軍によるなりふり構わない爆撃や圧倒的な戦力差によって、多くの犠牲者を出した果てに屈服した。国連はもはや何度目か分からないぐらいの安保理を開催するも、ウクライナの「非軍事化」と「非ナチ化」の完遂を譲らないロシアと、即刻ウクライナからの全軍撤退を主張するアメリカその他の国々とは平行線に終わり、何ら実効的な解決策を見出すことはできなかった。一方、ロシア軍が血眼になって探してもウクライナの大統領ゼレンスキーを発見できず、プーチンはゼレンスキーを捕らえたものに報奨金を出すと発表していた。

 

 ある日、スネ夫は自作映画「宇宙大戦争」の成功に味を占め、次はもっと純文学的な作品を撮りたいと言い出して大江健三郎の「飼育」を原作とした映画を撮ることとした。裏山で落下傘兵を探す少年役のび太だったが、オリバー・ストーン風のドキュメンタリーを撮りたかったので拗ねて洞窟に入り込むと、そこには1人の白人男性がいた。「エッ! スネ夫設定変更なんて聞いてないよ! あの話は黒人じゃなきゃダメなんだよ!」と憤るのび太だが、どうやらスネ夫が用意した俳優ではないようだった(落下傘兵役はジャイアンだった)。ほんやくコンニャクを食べてコミュニケーションを図ると、なんとその男性はゼレンスキー大統領本人だった。彼は側近たちが自身の身を挺して時間を稼いでくれたおかげで命からがらキエフを脱出し、その後なんやかんやあって日本に辿り着いたのだと説明した。

 のび太たちは大騒ぎし、鉄人兵団襲来の際と同様に警察、自衛隊、総理大臣に国連事務総長、子ども電話相談室に電話した。ところが警察は「お問い合わせの件は集団的自衛権の行使の要否に該当すると思われるので防衛省に連絡願います」、自衛隊は「もう国内にいたら警察マターでしょ。ベレンコ中尉亡命事件でググってください」とウロボロスたらい回しをする始末。岸田文雄は「まずは丁寧に話を聞きたいと思います」と応じたが何故かその関連の決裁が外務副大臣で止まり(その後の国会質疑で副大臣は口頭決裁を求められたので正式なものではないと弁明したが黒川問題での法務省見解とは違うじゃないかと集中砲火を喰らった)、グテーレス事務総長は「もう終わりだよこの国連」と匙を投げ、子ども電話相談室からは子どもメンタルクリニックを紹介される結果となった。

 のび太がゼレンスキーに日本は力になれそうにないと告げると、彼はおいおいと泣いた。ゼレンスキーからウクライナの悲惨な現状を聞くにつれて、のび太は感情が高まり「異星人のパピを助けたんだから同じ地球人を助けないのはおかしな話だよ!」と言い、ゼレンスキーを助けようとみんなに提案し、賛同を得る。そこでドラえもんは「まずはプーチンと話をしよう!」と勧善懲悪型の大長編では珍しくリベラルなことを言って、のび太とともにどこでもドアでクレムリンに早速向かう。しずかちゃん、スネ夫ジャイアンはまずはゼレンスキーを骨川家で匿うために準備することになった。

 

 プーチンはその時SVRからウクライナ核兵器を製造していたというでっち上げ証拠を占拠した原発内で捏造していることの報告を受けていたが、突如乱入してきた青だぬきとメガネ黄色人種のガキに驚くことなく、マクロンを座らせた例のクソ長テーブルにつくよう勧めた。非公式日露会談が始まるやいなや、ドラえもんプーチンに①ウクライナ全土からの即時撤退、②クリミア半島及びドンバス地方の不法占領状態の解消、③今後如何なることがあってもロシアの隣国に対して侵略戦争を起こさないことの確約、④北方領土の返還という4点を飲むのであれば、「わすれろ草」を使ってこの侵攻がなかったことにして経済制裁も解除してやると迫ったが、プーチンはそれを鼻で笑いこう言った。

 

プーチン「時計の針を元に戻したところでNATOが再び拡大しないという保証がどこに? 奴らが我が国の目と鼻の先にMDはもちろん核を配備をしない保証は? 「NATOを1インチも東に動かさない」という約束すら守れない連中をどうやって信じろというのだ? 私は今回の侵攻で西側とそれにすり寄る愚か者どもに恐怖を思い出させてやったのだ。ロシアにはロシアの利益があり、その利益に少しでも触れようとするものには、それなりの代償が伴うという恐怖をな」

ドラえもん「そんな! 大体その東方不拡大の話は当時のベイカー米国務長官旧東ドイツ領を念頭に置いて言ってた話じゃないか! タイムテレビで確認できるぞ!」

プーチン「知ったことか。ロシアにとってはその約束こそがここ30年間の原則だったのだ。NATOが拡大するのであればこちらも原則を変えざるを得ないだけのこと。ゼレンスキーにはその生贄になってもらう。我々はどこでもゼレンスキーを追跡する。こう言っちゃ悪いが、便所にいても捕まえて、やつをぶち殺してやる。それで問題は終わりだ」

 

 交渉は決裂し、プーチンは早速FSOの警備要員たちを呼び寄せてドラえもんのび太を殺そうとする。命からがらどこでもドアで日本に逃げ帰る2人。そしてゼレンスキーたちと骨川家で合流し、プーチンには話が通じないので策を講じることとなった。

 作戦会議では以下の諸案が出たが、いずれも根強い反対で没になった。

①シンプルにウクライナ軍にジャンボ・ガン、熱線銃などといった「戦術ネズミ退治兵器」を供与する(ジャイアン案)→これには人殺しの手助けをするのがドラえもん的に厳しいというメタな反論がなされた。

ジャイアンの歌としずかちゃんのバイオリンを合わせた音響兵器をウクライナ全土で使用する(スネ夫案)→これには当然ウクライナ側の死傷者も避けられないし、核兵器級の兵器使用は状況をエスカレートさせロシアによる核使用を誘因するのではないかという反論がなされた。

もしもボックスプーチンではなくプリマコフが大統領になった世界にするのはどうか(しずかちゃん案)→多極世界を構想したプリマコフは意外にうまいことやったのではないかと確かに思われるところだが、魔界大冒険でもあったようにもしもボックスはあくまで「平行世界」への移行に過ぎないので、いま・ここの世界のウクライナ人にとっては何の救いにもならないので却下された。

④タイムマシンでヒトラーを連れてきて戦争指導をさせる(のび太案)→確かに現在の腰の引けた自由主義陣営のリーダーよりかはウクライナを助けるために軍事力行使も厭わないだろうが、多分ハチャメチャ第二次独ソ戦を繰り広げるし、何よりもロシアがウクライナに対して行っている「ナチ」批判を裏書きしてしまうじゃないかということで没になった。

 この他、ロシア軍を鏡面世界に連れ込んで勝手にやらせておく鉄人兵団手法や、もう地球破壊爆弾で終わりにする人類拡大自殺計画などが考案されたが却下され、小学5年生とウクライナ大統領による小田原評定は永遠に続くと思われたが、最後に以下のドラえもん案が決行に移されることとなった。

 

 即ち、「きこりの泉」にプーチンを沈めてきれいなプーチンに挿げ替えるのである。「きこりの泉」は泉の中に入れ込んだものよりも良い状態のものを手に入れられる道具であり、ロシア国内での体制転換が望めない以上はプーチンを変えるしかないと考えたのである。

 

 このためには再度クレムリンに侵入する必要があるわけだが、しかし既にドラえもんのび太の乱入によって警備は大幅に強化されており、どこでもドアで行くのは困難であることが発覚した。そのためにドラえもんたちが目をつけたのが、プーチンが飼っている「秋田犬」だった。つまり、動物変身ビスケットで犬になったドラえもんたちが、日本政府からの贈り物としてプーチンの元に届けられ、そしてそこで人間の姿に戻ってプーチンを半殺しにしてきこりの泉に叩き込む、ということになったのである。

 早速ドラえもんたちは安倍晋三議員会館事務所を訪れ今回の作戦を説明。返してもらえる見込みもないのに北方領土につられて対ロ宥和策を取ってきたことで、自身の得意分野である外交をボロクソにけなされていた安倍はこのドラえもんたちの提案を名誉挽回の機会と考え、早速岸田文雄に電話をかけた。

 

安倍「北方領土を取り戻すためにはロシアを孤立化させないことが必要。いつか必ずロシアは日本が助けてくれたことを恩に感じるはずだよ」

岸田「いやでも……流石にこのタイミングでロシアに友好的なポーズをとるのはアメリカも国際社会も許さんでしょ……」

安倍「貴方ねえ、誰のおかげで首相やれているんですか? 私はね、本当は高市さんにやってもらうことが一番だと今でも思っているし、菅さんの再登板だってなくはない」

岸田「はいすぐに頑張ります」

 

 こうして、日本政府は急遽ロシア大使館を通じて秋田犬の贈呈を提案。ロシア政府も孤立化の印象を免れると考え快諾した。その後、岸田文雄臨時閣議を招集し、秋田犬5匹をプーチンに送ることを閣議決定した。この決定はすぐさま全世界に知れ渡り、ホワイトハウスは「日本政府の決定に深い失望を禁じ得ない」と痛烈に批判した。ポーランドに樹立されたウクライナ亡命政府(なお公式にはゼレンスキーは戦闘中行方不明となっている。ポーランド政府も密かにイギリスでの自国亡命政権の樹立準備を始めた)も「国際社会の結束を乱す日本の行為に第二次世界大戦に突き進んだかつての枢軸国の面影を見るようだ」と表明。日本の面子は丸つぶれとなり、岸田政権は自民党保守派の突き上げを喰らい崩壊した。

 しかし、秋田犬「ドラ」「のび」「しず」「スネ」「ジャイ」は無事プーチンの元に届けられた。プーチンは自分が飼っている「ゆめ」と5匹の犬をしげしげと見比べると、おもむろに懐からスチェッキン・マシンピストルを取り出した。実は動物変身ビスケットの効果が切れてしまっていたのだ。

 バレては仕方ないと、プーチンに飛びかかるドラえもんたち。KGB出身、講道館柔道6段というマッチョオブマッチョのプーチンでも、大長編で幾たびの死線を潜り抜けてきた異常小学生4人と22世紀の汎用ネコ型決戦兵器には敵わなかった。スチェッキンの連射による9×18mmマカロフ弾の弾雨をやり過ごし、プーチンが舌打ちしながらマガジンを交換しようとしたところにしずかちゃんは風呂桶に入った熱湯をプーチンに浴びせかけ、ジャイアンが隠し持っていたバットでプーチンの鼻頭に一撃を見まい、スネ夫は自慢の髪型でプーチンの腱を切り裂き体勢を崩す。のび太があやとりのヒモでプーチンの首を絞め、最後にドラえもんがその石頭でプーチンの頭蓋をブチ壊した。こうして気絶したプーチンを5人がかりできこりの泉に沈めると、泉の女神が両手にプーチン2体を持ってこう尋ねた。

 

女神「あなたたちが落としたのはこのきれいなプーチンですか? それとも人殺しで悪魔で露助で火事場泥棒でファシストの薄汚いプーチンですか?」

のび太「人殺しで悪魔で露助で火事場泥棒でファシストの薄汚いプーチンです!」

女神「正直なあなたにはこのきれいなプーチンを差し上げましょう」

 

 こうしてきれいなプーチンが残された(元のプーチンは女神によって水の中に沈められ溺死した)。きれいなプーチンは今までのことを反省し、ロシア軍をウクライナ全土から引き上げることを宣言した。ドラえもんたちは元のプーチンの死体をレーニン廟に納めた後、日本にいたゼレンスキーをどこでもドアでキエフに連れていき、ウクライナから去るロシア軍の車列を見届けてから日本に帰った。

 ある日、しずかちゃんが育てていたひまわりを眺めるのび太。ひまわりを見ながら「ゼレンスキーさんとウクライナのみんなは元気にやってるかな」と独り言ちるのであった……。

 

【感想】

 端的に面白くてハラハラドキドキとさせられました。いい映画だったと思います。ただ、やはり結局これはどこまでいっても西側自由主義陣営の映画だなという感じも否めませんね。プーチンを挿げ替えるだけで問題が果たして解決するのかなというのは疑問ですね。あとこれ作中では見過ごされてますけどプーチン殺しているので殺人罪では……と思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

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