死者の如き従順

脱落者・敗北者・落伍者と連帯するブログ

【映画感想】ドラえもん のび太と地区交響楽(シンフォニー)-1.0

 2/30に鑑賞しました。実は平行世界の俺は3/1に別のドラえもん大長編を観て「うーん、ドラえもんでやる必要あったか?w」という不遜な感想を残したらしいのだが、本作は多分次のアカデミー賞になるっぽい。ドラえもんの音楽と言えばやっぱジャイアンよ。

 

【あらすじ】

 いつものように大好きなコミックゼロスを買ってルンルン気分で家路を急ぐのび太。そこにジャイアンが現れる。

 

 ジャイアン「おおのび太、心の友よ! 実はな、折り入って頼みがあるんだ……」

 のび太(アレッ、ノーモーションで掃除朋具先生表紙のコミックゼロスを取り上げない……だと……!? 嫌な予感がするぞ……!)

 ジャイアン「俺は特別なジャイアンリサイタルを開催する。だから、いつもみたいにチケットを配ってほしい!」

 のび太「エーッ……じゃなかった、ワァ、嬉しいなァ……(嫌だい嫌だい! 人権侵害の片棒担がされるの嫌だい!)」

 ジャイアン「今回のチケットノルマは……200万枚だ!」

 のび太「200……万枚!? いやちょっと待ってよジャイアン練馬区の人口の約3倍のノルマなんて捌ききれるわけないよ! 大体いつもの空き地に200万人も入るわけないじゃないか!」

 ジャイアン「ふっ、お前わかってねえな。俺の特別リサイタルはな……ガザ地区でやるんだよ!!!」

 のび太「が、ガザ地区ッ!? あの「世界最大の空き地a.k.aイスラエルの遊び場」と言われているガザ地区!?」

 ジャイアン「そうだ、俺は毎日ニュースでガザの現状に心を痛めている……」

 のび太「そ、そうなんだ……(こいつ、普段はネタニヤフと同じぐらいのいじめっこの癖に何を偉そうに……)」

 ジャイアン「だからこそ! 俺は! 音楽の力で! ガザに平和をもたらしたいんだ! イスラエルとアラブの架け橋になりてえんだよ! なあ、お前ならドラえもんに頼んでガザ地区中に俺の歌声を届けられるはずだ! ガザの人たちの希望にならせてくれ! 心の友よ……一生のお願いだ!」

 のび太「そうなんだ……。うん、わかった、ドラえもんに頼んでみるよ(ッシャァ! とりあえず僕らはこの歌声を聴かなくて済むんだラッキー!!!)」

 

 というわけでのび太ドラえもんに事の次第を報告し助力を請うも……。

 

 ドラえもん「君という人間は! 何てむごいことを! ジャイアンの歌声なんか聞かされたら、万年栄養失調のガザ地区の人たちにはひとたまりもないぞ! そんな大量虐殺に加担するために僕は22世紀から来たわけじゃないぞ!」

 のび太「じゃあドラえもん練馬区月見ヶ丘の子どもたちがジャイアンの歌声で虐待されてもいいっていうのか! 子どもには自分を守る権利があるんだ! それにどうせイスラエル軍が皆殺しにするんだから結果は変わらないじゃないか! そもそももう住民は赤ん坊から老人まで軒並み死んでるし、あちこち瓦礫だらけなんだから今さらジャイアンの歌が一曲流れたところで大して変わるもんか!」

 ドラえもん「このアホのび太! どんなにひどい現在でも、彼らには希望を抱く権利があるし、すべてをイスラエルに奪われた彼らにとってはその希望こそが生きるよすがなんだ! 岡真理でも読み直せ! それに、君たちはあのジャイアンリサイタルを耐える義務がある! 君たちはサザエさん時空のおかげで永遠に歳も取らずに生きていられるからこそ、あのジャイアンの歌声で生きていられるんだ! あんなもんをその時空の外に出したら一巻の終わりだぞ! まともな人間が耐えられるわけがない!」

 のび太「僕たちだって死なないのをいいことに毎週のようにイクシオンの車輪の如き永劫の苦痛に耐えてるんだぞ! 大体ね、国が違えば文化も違うっていうからには、ジャイアンのあの歌声だってガザではKing GnuとかYOASOBIみたいに持てはやされるかもしれないじゃないか!」

 ドラえもん「なわけあるかーっ! あれは壊すことしかできないんだよ! ホロコースト・ナクバ・ジャイアンリサイタルみたいな三題噺を22世紀に伝えるのか!? 君は自分の友達を、ナチとシオニストと同列に置いていいのか!?」

 のび太「わかったわかった! じゃあとりあえずジャイアンリサイタルガザ地区で開くには開いて、ガザの人たちにはうまいことジャイアンの歌を聴かせないようにしよう! 運がよければ現地のイスラエル軍を殲滅することができるかもしれない!」

 ドラえもん「……なるほど!!! のび太君にしては冴えているね! よしわかった、人類の恒久平和のためだ! 僕の道具で何とかしてみせるよ!」

 

 というわけで、ドラえもんのび太ジャイアンリサイタルもとい第二次クリスタルナハトinガザのための計画を練る。

 いつもであれば、ドラえもんの道具を使えば大抵の不可能は可能になるのだが、この時ドラえもんは一部の道具をシン・ビッグモーター社(注:伊藤忠による買収後は日本人の健忘国民性もあってか生き永らえて、再委託でひみつ道具の検査なども手広くやるようになった)に検査を出していたため、いくつかの工程は自分たちの力で何とかするしかなかった。

 まず、リサイタル会場の手配や当日までの準備運営などについてである。これについて、ドラえもんたちは一計を案じ、ある場所へ向かった。

 

 所変わって首相官邸。時の首相・岸田文雄はやけ酒を呷りながら自民党を復活させる起死回生の策を、木原誠二ら側近や首相秘書官たちとともに練っていた。麻生太郎の舌を引っこ抜いて競売にかける、生成AIで安倍晋三を蘇らせて土下座させる、とりあえず森喜朗は憎いので殺す、大谷翔平がシーズン中ホームランを打つたびに裏金を受け取った議員を1人裁判抜きで死刑にするなどの策を練っていると、目の前に突然ピンクのドアが現れ……。

 

 ドラえもん「こんちわ! 僕ドラえもんです! 増税メガネ、じゃなかった岸田さんにお願いがあって来ました!」

 岸田「はっ? な、なんだこいつは……?」

 ドラえもん「日本政府はUNRWA国連パレスチナ難民救済事業機関)への拠出金を停止して金をだぶつかせていると思うんですが、そのお金で僕の友達のリサイタルをガザ地区で開きたいと思ってるんで諸々ご手配ください!」

 岸田「何……? (首相秘書官から回されたメモを見ながら)えーと、UNRWA側において本件に関する調査が行われ、対応策が検討される当面の間、追加的な資金拠出を一時停止せざるを得ないとの判断に至ったもので、あります。UNRWAが本来果たすべき役割をしっかりと果たせるよう、調査が迅速かつ完全な形で実施され、適切な対応がとられることを強く求めていく所存です。」

 ドラえもん「ここに集団懲罰の言い訳を聞きに来たんじゃないの! お金を出さないなら、あんたたちのこれまでの政治活動に関する資金の流れを全部公開するように「ポータブル国会」を使って強制的に法律を定めるけど?」

 岸田「なんだと……!」

 木原「総理、この青狸が言っていることは本当です……。実は先ほどこの青狸が、例の冤罪の件で、協力しなければ文春に「タイムテレビ」なる道具で我々の行動を全て見せると……。実際、確かにそのテレビにはあの日の妻の行動が映されていたのです……監視カメラなどなかったはずなのに! この青狸にかかれば法律の制定なぞ何でもないことなのでしょう……」

 岸田「クソッ、メチャクチャだ……! 安倍のせいで統一教会絡みで足をすくわれ、安倍派のバカどものせいで政治資金問題でさんざんな目にあったというのに、今度はこの変な奴に脅されるのか……ええいわかった、とはいえUNRWAへの金はどうにもできないから、予備費やら官房機密費で対応するぞ!」

 ドラえもん「ありがとうございます~! お礼に「どくさいスイッチ」で誰か消してあげるけど?」

 岸田「いやもう何もかもうんざりだ! 消すなら俺を消せーッ!!!」

 木原「そ、総理……!」

 ドラえもん「あーあ、おかしくなっちゃった。とりあえず目的は果たしたし帰るか」

 

 一方のび太は、タケコプターでガザ地区を飛び回りながら、ジャイアンリサイタルのチケットをバラまいていた。イスラエル軍の無差別な攻撃を避けながら、ガザの人々ははるばる日本から少年が自分たちのために歌声を披露してくれることに感激を受け、是非とも会場に駆け付けたいと思っていた。

 もちろんこのリサイタルについてはイスラエルもすぐさま把握した。モサドが各国情報機関に照会をかけたところ、アメリカのCIAから日本政府がリサイタルを企画し、予算を出しているという情報提供がなされた。日本政府の意図は読めないものの、リサイタルの名を借りたハマスによる決起集会であり、シンワルら幹部が出席する可能性が高いという分析結果(後にイスラエルの極右によって歪められた分析であることが明らかになる)をもとに、イスラエル軍はリサイタル会場への総攻撃を目論んだ。バイデン政権は大量虐殺になりかねない作戦を強く憂慮したが、トランプとの選挙戦もあることから強くは言えなかった。

 

 というわけでリサイタル当日。ガザ地区の野外会場には、多くの住民たちがジャイアンの歌声を聴くために殺到した。会場外ではイスラエル軍が既に包囲しており、今か今かと攻撃命令を待っていた。

 ジャイアンのび太ドラえもん、お前らサンキューな! 俺の音楽を平和の架け橋にしてくれてよ!」 

 のび太「う、うん、ジャイアン、ガザの人たちのために、おもっきし歌ってよ!」

 ドラえもん「最高のステージを用意したからね! みんな楽しみにしているよ!」

 

 ドラえもんのび太の計画は以下のとおりだった。まず、改造した「音消しマイク」を使って、会場内のガザ地区の人々にはジャイアンの破滅の歌声を聴かせないようにする。しかし、会場外に用意した「音消しマイク」と接続させたスピーカーにはその音を何倍にも増幅して伝えるようにしてあるので、包囲しているイスラエル軍ジャイアンの歌声で壊滅させられるというものだった。

 

 ジャイアン「あー、会場の皆さん、僕、剛田武といいます。この度はこんな機会をいただけてうれしいです。精一杯歌います。聞いてください、おれはジャイアンさまだ!」

 

 ジャイアンが声を張り上げた――。しかし、会場内はしーんとしている。ガザの人々は顔を見合わせつつも、会場のジャイアンが極めて熱を込めて歌い上げている様を見て、連日連夜のイスラエル空爆や砲撃で耳がおかしくなっているのだと考えた。せっかく日本から歌い手が来てくれたのに、その歌すら聞けないなんて……。ガザの人たちは悲嘆にくれた。

 会場外。破滅だった。ヨハネの黙示録に描かれた終末のラッパとはこのような音なのか。イスラエル軍は「お~れ~は~ジャイア~ン♪ ガキだ~いしょ~う♪」という音とともに発せられた強力な衝撃波をまともに喰らい、木っ端みじんとなった。世界最強の戦車と謡われたメルカバMk.4の重装甲をもってさえ音を防ぐことはできず、乗員たちは血反吐を吐き倒れた。一切の反撃を試みることさえ許されず、イスラエル軍は一瞬にして壊滅した。この悲劇は後にマサダ要塞の集団自決とともに、イスラエルユダヤ民族の悲劇として語り継がれることになった。

 

 一曲目を歌い終えたジャイアンは、悲しんでいるガザの人たちを見てハッとした。

 

 ジャイアン「そうか……! すまねえお前ら! 俺としたことがこんな簡単なことに気づかなかったなんてな。お前ら、メシ、食ってねえんだろ……。そうだよな、リサイタルの前に腹ごしらえだ! ジャイアンシチュー200万人分を用意してきたぜ!」

 ドラ&のび「ファッ!?」

 

 驚愕した二人だが、UNRWAの職員たち(暇なのでリサイタルの運営を手伝っていた)がジャイアンシチューガザ地区の人々に配ることを止めることはできなかった。ジャイアンシチューは、ひき肉、たくあん、塩辛、ジャム、煮干、大福、セミの抜け殻などを材料とした、ジャイアンの歌声に勝るとも劣らない究極の殺人兵器である。ガザの人々がジャイアンシチューを食べれば死は避けられず、ドラえもんたちはジェノサイドの罪でイスラエルとともにICCに起訴されることになるだろう――。恐るべき事態に、ドラえもんのび太は引き攣った顔を見合わせた。

 ガザの人々は久しぶりの食料に歓喜し、我先にとジャイアンシチューを口に運ぶ。もうダメだ――。ドラえもんたちがそう思ったが、ガザ地区の人たちはまずそうな顔をしながらもスプーンを持った手を止めることはなかった。

 

 のび太「あれ、ドラえもん! みんなあのBC兵器紛いを食べ続けてるよ!」

 ドラえもん「……ハッ! そうか! 君たちがジャイアンの歌声に耐性があるように、ガザの人たちの飢餓に鍛えられた胃袋が、ジャイアンシチューの毒を耐えられるようにして、むしろその栄養をとるように努めているんだ!」

 のび太「なるほど! 毒も栄養も両方を共に美味いと感じ、血肉に変える度量――ガザの人たちは範馬勇次郎ばりのバイタリティを持っているんだ!!!!」

 ジャイアン「おお、こんなにうまそうに食ってくれるなんて……お前ら全員心の友だァ~! よっしゃ、元気になったところでリサイタルを再開するぜ! おい、こんなマイクなんかいらねえ、腹から声出して生歌を伝えるぜ!!!」

 

 そう言ってジャイアンは音消しマイクを叩き壊した。これではジャイアンの歌声でガザ地区の人々を殺すことになってしまう。

 

 のび太「まずい! ドラえもんジャイアンシチューを!」

 ドラえもん「えっ、どうして……いやなるほど、わかった! ジャイアン! 歌う前伊君もガザの人たちと一緒にシチューを食べたらどう?」

 ジャイアン「おっ、気が利くな。そうだな、SEALDsも言ってたけど、同じ釜の飯を食って分かりあわなきゃな……パクッ、ギャ~!」

 

 ドラえもんから受け取ったジャイアンシチューを食ったジャイアンはひっくり返る(筆者注:歌声とは違い、ジャイアンは自身のゲテモノ料理に耐性がない。「恐怖のディナーショー」参照)。のび太ドラえもんは気絶したジャイアンを抱えながら、歌手が感極まってぶっ倒れたのでリサイタルは中止ですと呼びかける。せっかく楽しみにしていたイベントではあるが、期待を裏切られることには慣れっこだったガザの人々は不平不満を呟きながらも大人しく帰っていった。が、会場外に出た途端、イスラエル軍の死屍累々の光景を見て彼らが歓喜したのは言うまでもない。

 

 期せずして人類の平和に貢献したのび太たちは、ガザの人々の生命力の強さに心底感心し、彼らならきっとまた一からやり直せると確信し、映画は幕を閉じるーー。

 

 いやはや、面白かったですね。ちなみに次回作はイスラエルから付け狙われたドラえもんたちがアイヒマン同様に拉致されて裁判にかけられる回だそうです。見応えのある法廷映画になっていることを期待します!

 

※以上記述は壮大な冗談としてお読みください。なお、当ブログは「脱落者・敗北者・落伍者と連帯するブログ」なので、当然ながらガザ及びパレスチナの人々に連帯します。イスラエル軍ガザ地区からの即時撤退とハマスに囚われた人質解放に向けて、日本政府含む国際社会の全てのアクターが尽力することを強く希望します。