死者の如き従順

脱落者・敗北者・落伍者と連帯するブログ

20240226

【労働】

 小さな成功を積み重ねる。大きな失敗をしない。これだけの素朴な毎日。そういう一日があればいいなと思ったのですが、たまたま今日だった。だが俺はこの職場に対する信頼が絶望的なまでに稀薄なので明日がどうなるか全く分からない。

 

【ニュース】

トランプ氏「私は誇り高い反体制派だ」 ナワリヌイ氏の境遇を意識か [アメリカ大統領選挙2024]:朝日新聞デジタル

 二度の世界大戦で思う存分殺し合った上で、それでも何故人間は生き続けなければならないのかということを考えてきた積み重ねを無に帰すほど零落した世界にふさわしい大統領かもしれませんね。シェイクスピア薔薇戦争というカオスに「絢爛たる悲惨」を見たわけだが、むしろホッブズが述べたような「孤独で、貧しく、卑劣で、残酷で、短い人生を送る」ような世界ですよね。問題は、これが自然状態でもなんでもなく、文明が最高に進展した結果ということなんですが……。

 

倒産相次ぐのに…利益率高い?根拠データに疑問も 訪問介護報酬改定:朝日新聞デジタル

【そもそも解説】介護サービス、処遇改善の「加算」はどんな仕組み?:朝日新聞デジタル

 厚労省君にはデータの関係では前科がありますからね。いずれ訪問介護の人たちが徒党を組んでジジイババアを殺して金品を奪う羅生門の領域展開みたいなことになってはじめてこの国はコンサルに無批判に金を落としてきたことを後悔するような気がします。

 

何度も破られる国際法は「不存在」なのか 言論で折り合う精神を再び:朝日新聞デジタル

 俺は朝日新聞を思想上の仮想敵だと思っているので、あんまり褒めたくないのだが、この田島記者の目の付け所には毎回感心している。細谷雄一のX(旧Twitter)を昔見てた時に確か細谷ゼミ出身ということが書かれていたが、そこで得た知識が遺憾なく発揮されていると思う。所属を見ると文化部で読書等を担当されているということで、これは適材適所なのかなと思いました。

 

ソニーに「白羽の矢が立った」 TSMC進出を推した二人三脚の関係:朝日新聞デジタル

 連載二回目。なるほど勉強になる。

 

【読書】

 最近新刊ばっかり読んでいるので、こっからは無限の積読消化コーナーに参ります。そろそろ本当にヤバくなってきたし、積読を解消しないと新しく本を買えないとかそういう縛りをかける必要がありそう。それに、本当のことは過去にしかないので、やっぱり時の試練を耐えた本を読んだ方がいいんですよね(すっとぼけ)。

 というわけで、実は読んだことがなかった『ギボン自伝』(ちくま学芸文庫、1999)を読んでいます。『ローマ帝国衰亡史』(これも近々読みます)の著者にして、イギリスの古き良きジェントリ君の生活と意見が述べられています。今日は第4章まで読みました。序章で、この自伝が元々は草稿だったと知りびっくりしました(この「だったと知りびっくりしました」は2024年2月27日段階での追記です。まさか草稿に触れる言及が草稿レベルの状態だったとは笑えませんね……)。

 「第1章 家系」は現代人にはあまりオススメしません。何故ならここを読むだけでこの鼻持ちならない書き手のことが死ぬほど嫌いになるので。家系のことはひけらかして当然やねんみたいな話をされても困るんだよな。お前の家系のことなんか知るかという気持ちしかないので。ギボン自身は武人貴族の家系よりも文人として令名を馳せた貴族の家系の方が誇らしいようで、小説家フィールディングの先祖がハプスブルク家だとして、ハプスブルクの栄光よりも『トム・ジョーンズ』の方が後世に残るなんて嘯いている。が、中野好之による訳注でフィールディングがハプスブルク系であるという説は意図的な捏造であると実証されていると指摘されており、「うはwwwwざまぁwww」とVIPPERのように喜んでしまった。「我々の女系の側の生みの親全員の一点の曇りなき貞節」(p18)によって家系の正統性が確かになるという、ミソジニストの俺がビックリするぐらい最低なことをのたまっているが、残念ながら普通に偽造とかでもダメになるんやで勉強になったなエドワード君よ。ほかにも、祖父より前の著述については怪しいと目される点もあるようだ。ただ、南海会社泡沫事件に巻き込まれて財産を没収されたがその後普通に持ち直した祖父と、それを普通に食い潰した父親、優しい独身の叔母さんに育てられた話なんかは、ギボンの実体験もあってか興味深く読みました。

 「第2章 少年期 ウェストミンスタ校」では、虚弱だったが読書欲旺盛だった少年時代が語られる。「私が三歳と四歳の間であったに相違ない時期に、サウサムプトンの議席を目指す私の父親の選挙戦と、たまたま笞打たれた私が彼の対抗馬たちの名前を叫んで子供っぽい復讐を遂げたことは、私が記憶するように思う最初の出来事である。」(p53)で笑ってしまった。中選挙区時代の政治家の親父に息子がそんなん言ったら殺されとるがな。また、学校教育に対して極めて批判的なのが印象に残った(この辺の恨みはオックスフォード時代も引きずっててワロタ)。ラテン語読解をしてできなかったら体罰みたいな文化に対する皮肉が面白かった。ラテン語教育で取り上げられているテクストについての評言である。「パエドルスのラテン語は白銀時代の混ぜものを完全には免れてはいないが、彼の文体は完結、平明そして豊饒であり、このトラキアの奴隷は自由民の感情を控えめに吐露しており、本文が真正な個所ではその文体は明晰である。しかし彼の寓話は久しく忘れられた後に不完全な写本からピエール・ビトゥによって初めて公刊された故に、五十人の編集者の労苦は現物の価値だけでなく写本の欠陥を露呈している。それ故にあるいはベントリも復元できずブルマンも判読できなかった文章を誤訳したと言って、小学生が笞打たれる恐れがあるかもしれない。」(p62)これはラテン語をすらすらと読めるようになった壮年のギボンによる過去へのささやかな復讐と言えるかもしれない。なお、未来の何もかも忘れた自分に一言添えておくと、ベントリもブルマンも時代を画した大古典学者です(ベントリはファラリス書簡の批判者としても有名ですね。)。あと、叔母の影響を受けて読書大好き少年だったギボンはありとあらゆる古典を英語訳で読みつくしたが、それによって外国語学習が遅れてしまったみたいな話があり、ギボンでもそうだったんだと妙な安心感がありました。

 「第3章 オックスフォード」では、オックスフォードやケンブリッジのような最高の大学に入って嬉しい!みたいな人の意見を引用したかと思えば「いやでも俺はオックスフォードはクソだと思っている」となんJ民みたいな底意地の悪さを発揮していて面白かった。自費特待生という特異な立場で入学したオックスフォードでは、怠惰な教授陣は何もせずチューターに丸投げで、そのチューターもさしてよくはなかったので、ギボンはすっかりと勉学の熱を失い、大学生にありがちな放蕩のイキリ生活に迷い込んでしまう。ついにはローマ・カトリックに改宗するという顛末を引き起こし、これが原因でオックスフォードを出禁になったという。マジかよ。

 「第4章 ローザンヌ」では、改宗する!と一方的に通告してきたギボンに対して腰を抜かした忠実な国教会徒である父が、プロテスタントの影響の強いローザンヌにギボンを送ったことが語られる。ローザンヌの生活は慣れないこと続きだったが(下男がいなくて不便だったとか書いててこいつマジで死なねえかなと思った。もう死んでるが。)、慣れていくうちに割と自由な時間がとれたので、ラテン語の文献をフランス語に訳したり、逆も然りということでフランス語やラテン語をマスターしたり、面白かった本を何度も何度も読みまくったことが書かれていて、このあたりはギボンの該博な知識がどのように得られたのかが割と分かって面白い。一例を引く。「私はテレンティウス、ウェルギリウスホラティウスタキトゥスらを二度、否、時には三度もゆっくり読み直して私自身の気性に最も訴えかける感覚と精神の吸収に努力した。私はたまたま難解もしくは不完全な文章に出会っても決してそれを読み飛ばさずに、それが容れうるあらゆる解釈の突き合わせに努め、おおむね期待外れに終ったもののホラティウスについてのトレンティウスとダシエ、ウェルギリウスについてのカトルーとセルヴィウス、タキトゥスについてのリプシウス、オウィディウスについてのメジリアクなど、独創的な注釈化の中でも最も博学な人々の著書を参照し、私の探求の熱意に促されるままに広範囲にわたる歴史的批評的な文献を渉猟した。個々の著作の抜き書きはフランス語で行なわれたが、私の評言はしばしばそれ自体で個々のエッセーへと拡大し、私はウェルギリウスの「農耕詩」第四歌の八行を論じた二折版8ページの論考を今でもそれほど軽蔑しないで読むことができる。」(p121)。

 上記のような形でラテン語で古典に触れてギリシア語にチャレンジしたり(ただ単語を覚えたりするのが面倒で一回挫折しているようだ)、法学ではモンテスキューを味読したり、哲学の文献にも触れたりといろいろと濫読したようである。なお、こうした濫読を抜き書きしていたようだが、著者は「確かに筆の動きは観念を紙に書きつけることで疑いもなく心にも印銘するだろうが、果してこの手間のかかる方法が時間の消費を十分に償う効果を有する否かを私はすこぶる疑問に思う。」(pp125-6)と述べていた。このブログはどうしたらええんですか……。

 

【動画】

 「映像の世紀 バタフライエフェクト」の「CIA 世界を変えた秘密工作」を見ました。基本的には既知の内容ではあったが、やはり映像で見るとまた違って面白いですね。CIAがやらかしてきたことは短期的には成果を上げたのかもしれないが、中長期的にはろくでもないことだよという当たり前の教訓話という感じでしたね。取材はかなりしっかりしているなという印象は持ったが、かつての映像の世紀のような作品としての完成度はあまりなく、衝迫力には欠けたかな。

 内容としては、CIAの前史であるOSSに軽く触れた後、主にイラン・ハンガリー・チリでの工作活動に焦点を当てたもの。イランはAJAX作戦(モサデク転覆)、ハンガリーハンガリー騒乱について「ラジオ・フリー・ヨーロッパ」を使った指嗾、チリはアジェンデ政権の打倒に関してそれぞれの関与が示される。最後のアジェンデ政権の打倒について、この映像を見る限りだと現段階でも公開された文書の範囲内では実際にピノチェトらのクーデターそれ自体にCIAが関与していたという決定的な証拠は出ていないらしい。CIAがチリをメチャクチャにしようとしてありとあらゆる最悪なことをやったのは有名な話だし、実際にクーデターまがいのことをやろうとしていた形跡もあるようだが、1973年9月11日のクーデターに関与していたという証拠は確か今も見つかっていないはずである(CIAがチリの軍部と報連相をしっかりしていたのは明白だが)。この点は結構説明があやふやだった印象。とはいえ、俺もあんまりここら辺の情報をアップデートしていないのだが。

 

【雑感】

 映像の世紀見てブログ書いてたらこんな時間かよ。仕事して帰ってからの可処分時間全部これで終わるな。確かにこのブログを書く時間で何かできるのではと言われたらごもっともとしか言いようがない。実際このブログは何にもならないが、せいぜい飽きるまではやるさという感じである。1年続けたら、5年後の俺にとってはきっと面白い読み物になっているのではないかと思いますが。